原付改造の初心者の方へ


「俺は改造魔!」を読む前に
原付バイクいじりの初心者はここをお読みください


昔の原付バイクはノーマルでも80キロ近く出るものが多かったのですが
原付バイクの普及と低価格化で利用者の増加とともに事故が多発したため
最高速度60キロ&制限速度30キロ規制の法律ができました


頭部強打で重い後遺症や寝たきりになったり、死亡者も増えたため
それまではヘルメットの着用義務は地域ごとや排気量ごと、
高速道路では必要などと、決まりが色々とあいまいだったのですが
1986年に全ての排気量のオートバイでヘルメットを着用する法律ができました



この漫画に出てくる原付バイクはほとんどが2サイクルエンジンで、
当時のオートバイメーカー各社は原付の法律の規制前から生産していた
「もともとパワーが出る設計の昔からのエンジン」を
規制に合わせたエンジンパーツ、CDI、チャンバー(マフラー)などで
パワーと最高速度がちょうど規制値になるように「リミッター」をかけて生産していました

そのため誰でも比較的簡単に安価な社外品の改造パーツと小改造、小加工や
規制が無かったころの同型で古い年式のパーツを流用したり
スポーツモデルの同型エンジン一式にまるごと交換するなどして
50CCのままでも60キロ以上出るように、いわゆる「リミッター解除」で
お手軽にパワーアップができました


規制後でも、ノーマル状態からCDIを社外品のカスタムCDIに交換するだけで
いとも簡単に80〜90キロ程度出るようになる車種も多くありました

もともと本当はそれぐらいスピードが出るように作られていて
メーカーが50CCの速度規制の建前として
純正CDIに速度制限機能を付けていただけでした


60キロ以上出して走り続けても簡単には壊れないように
冷却関係や駆動系なども最初からそこそこ強く、豪華な設計になっていて
100キロ以上出せるようなよほどの改造内容でもない限り
冷却・駆動系を改造する必要はあまりありませんでした

なので購入と同時にまずCDIを社外品に交換するのはお約束だったのです
CDIを交換さえすれば大抵の人はとりあえず満足しました


ギア付き車もスクーターも、特に若者向けのスポーツモデルや
上級グレードモデルではこれらが当たり前の事で
バイクメーカーも改造パーツメーカーも
ユーザーも暗黙の了解だったのです


例えば50CCでカタログ上で6〜7馬力のものなら
馬力そのものはスーパーカブ70と同じぐらいです
いかに当時の2サイクル50CCはパワーがあるかがわかりますね
それをCDIなどで抑えていたのです


この頃の社外品のカスタムCDIは
点火時期を変えてエンジンの特性を変化させるような専門的な物ではなく
ノーマルCDIの速度制限機能が無い仕様にしただけの物がほとんどでした


他にはCDIはノーマルのまま
今何速のギアに入っているかの信号を無効にしたり、
エンジン回転数の電気信号を低く変換して
ノーマルCDIの速度制限機能を機能させなくする
社外品の「リミッターカット装置」がありました


なので「CDIを取り替えればリミッターカットされて速くなる」
というのは当時では間違いというわけでもありませんでしたが
カスタムCDIは60キロ以上出せるようになる魔法の部品であるかのような
今も本当に根強い誤解がこのあたりから発生しました


現代の原付バイクはレース専用も含め環境問題からほとんどが4サイクルエンジンで
さらにエンジン全体と給排気の基本設計でちょうど60キロ程度しか出ないように
もとからパワーがあまり無い必要最小限の性能のバイクとして作られていて
燃費向上と厳しい排ガス規制もあり、馬力も規制値よりはるかに低く作られています


ほんのごく一部の車種を除き
現代の日本のバイクメーカーの国内の正規販売の原付バイクの新車は
「本当はもっとスピードが出るけどCDIなどでリミッターをかけて速度を抑えている」
というような事はほとんどありません


なので現代の原付バイクで漫画に描かれているような
CDI交換やマフラー交換、エアクリーナーの交換程度ではパワーアップしません
何の変化も無いか、むしろ性能を悪化させるかエンジンを傷めるだけです


今販売されている車種用の社外品のカスタムCDIは、
そのカスタムメーカーの指定した改造内容のエンジンの特性に点火時期を合わせ
エンジン改造キットの実力を引き出すために作られているもので
ノーマル車に装着しても無意味です ものによっては調子が悪くなるだけです
全く別のバイクのCDIを装着しているようなものだからです

また、違うメーカーのパーツ同士を混ぜたエンジン改造でも
カスタムCDIの真の能力は発揮できません


ついでに言いますがホンダモンキーの純正CDIにリミッター機能は最初からありません
エンジン本体の性能で60キロしか出ないようになってます

これまで数えきれないほどの純正CDIがムダにゴミ箱に捨てられたことでしょう





2サイクルはエンジンの構造がとてもシンプルなため
エンジン本体を分解し組み立てるのにそれほどの技術と知識が必要ありませんでした
なのであまりよく調べなくても誰でもエンジンを簡単にいじれました


よく調べないからそのぶん基本的な組み付けミスも多かったのですが・・・


※漫画の中でピストンピンのクリップがよく外れてエンジンを壊しているのは
C型のクリップの合い口を90度以上ずらさなきゃいけないのを知らないためだと思われる

必ず覚えよう


※同様にミッション関連で間違いやすいスナップリングの付け方
これも必ず覚えよう



4サイクルエンジンは2サイクルエンジンより構造が複雑なため
きちんと理解していない人が組むのは難しく、注意点がとても多く
ひとつの組み付けミスでエンジンはいとも簡単に壊れます
分解するにも組み立てるにもメモとパーツリストとマニュアルは必須です


4サイクルエンジンは二つのバルブが開閉するのと
上下するピストンがそれぞれぶつからないように動いているのですが
組み間違えるとエンジンをかけた瞬間にぶつかって壊れてしまいます


組み立て手順の各部の目印を理解しないまま間違って組み付け
ピストンとバルブがぶつかるように組んでしまう初心者のミスが多いのです



50CC程度の4サイクルエンジンでは、構造と特性からマフラーの交換程度では
2サイクルエンジンのような劇的な走りの変化はありません

なんとなく走りがちょっと変わったかな?程度で、
最高速があきらかに大きく伸びるようになるという事はほとんどありません


2サイクルエンジンはチャンバー内の排気ガスの一部の「燃えきってない混合気」が反射し
再びエンジン内に戻り、また新しい混合気と混じって燃焼するを繰り返すという構造と特性なので
チャンバーは単純に「抜けの良し悪し」だけではなく、形状も大きく影響します

つまり2サイクルエンジンのチャンバーはエンジンの性能と走りを大きく左右する
「エンジンのメイン部品」なのです  良くも悪くも交換による変化はかなり大きいのです
※図の緑色が、空気とガソリンが適切な割合で混じった燃えやすいガス(混合気)

緑色のガスがいかにムダがなくきれいに燃焼できるかが重要で
反射の具合・混合気の戻り具合・排気ガスの抜け具合のそれぞれの絶妙なバランスで
単によく抜ければいいというものではないというのがわかりますね


なので2サイクルの「バイクはマフラーを交換すれば走りが大きく変わる」という話が
4サイクルエンジンが主流の現代も独り歩きし続け、根強いのです


どちらのタイプのエンジンもマフラーの抜けが良ければパワーが出るわけではありません
空気をいっぱいキャブレターに吸わせればパワーが出るわけではありません

すごく簡単に説明すると、吸気にも排気にも
適切な「抵抗」が無ければエンジンは力を発揮できません


エアクリーナーを外したり、パワーフィルターやファンネルを付けると見た目はかっこいいし
ノーマルエアクリーナーの中のゴミ取り網やフィルターを取り除いたりすると、
いかにもいっぱい空気を吸ってエンジンのパワーが今より出そうに思うかもしれませんが
むりやり空気を大量に乱暴に限界以上に吸わせてはキャブレターは正しく機能できません

キャブレターは適正な量の空気を乱れが無く静かに吸わせることで
正しく機能してエンジンの実力をしっかり引き出します

キャブレターとエアクリーナーと空気に関する小難しい理屈はたくさんあるのですが
キャブレターは正しい量の空気を静かに吸わせる物なのだと知っておけばそれだけで充分です


マフラーの抜けが良ければ良いほど性能が良いんだと思うのなら
試しにマフラーを外して走ってみればいいでしょう バイクはまともに走りません

難しい理屈はさておき、排気にも適切な抵抗のあるマフラーが必要なのです
中身を抜くとか穴を開けるとかで良い効果などほとんどありません
ただうるさくなってパワーダウンするなど、むしろ悪化することばかりです

エンジンのパワーアップの改造で重要な「吸気」「排気」は、
まずこれが全ての基本なのですが、この基本をまるっきり誤解していると
わざわざお金をかけて自分の愛車を壊しているのも同然です


「じゃあレース仕様は直キャブだったり直管マフラーだったりするのはなぜ?」
と思うかもしれませんが、レース仕様はエンジンをぶん回して一定の高回転域を維持して
ゴミや砂ぼこりが無いサーキットをハイスピードで走り続けるという特殊な状況で走るので
直キャブや直管マフラーがそのコースの走りの条件に合う場合もあるのです

要するに、メインに使う一定の回転域だけで過剰なパワーが出ればいいという、
レース専用にとてもクセのある設定にしているのです


何年も使うし、春夏秋冬どんな天気でもエンジンの調子が下から上まで一定で
毎回確実にエンジンが始動し、一時停止&走るを繰り返す町乗り仕様と、

エンジンの調子が気温や天気のちょっとした変化の影響を大きく受け
突き詰めるとコースだけでなくその日の天気でセッティングを全てやり直し
スタート前にじゅうぶんに時間をかけてエンジンを温め、各部の最終確認をし、

スタートしたらゴールまでの数分〜数時間程度を高回転のみを使って走り続ける
レース仕様とでは、同じ「エンジンチューン」でも内容が全く違います

エンジンがとてもかかりにくいとか、アイドリングは全くしなくてもいいとか、
毎回オイル交換が必要だとか、数回・数時間程度でエンジンの分解整備が必要だとか、
どんなに注意してもエンジンがいきなり壊れるのを前提とするようなデメリットがあっても
限界以上のパワーを出しスピードのみを追求したのがレース仕様です

エンジンの限界以上にパワーを無理やり出させるのだからエンジンのダメージは当然大きく
レース用のエンジンはパーツどころかエンジンそのものが消耗品の使い捨てのようなものです


なのでレース用のエンジン改造キットなんかを町乗り目的で使ったり
レース仕様をマネしていろいろいじくりまわすと、ろくにエンジンがかからなくなって泣くか
あっという間にエンジンが壊れて大きな修理代か、廃車にするハメになります


レースをやる人でもない限り、レース仕様の専門的なことを覚える必要はありません
「町乗り仕様」と「レース仕様」の違いはだいたいそんなものだと
なんとなく理解するだけで充分です


もう一度言いますが、今の原付バイク全般で
CDIとマフラーとエアクリーナーを交換した程度では速さにはつながりません

「原付バイクを買ったからとりあえずCDIを交換しておこう」というのはお金の無駄です
マフラーとエアクリーナーを排気音とファッション目的として割り切って交換しているならともかく
今の原付バイクでノーマルなのに「速さ目的」でこの三つを交換するのは無意味です


大昔の改造の知識は大昔の原付バイクにはもちろん通じます
ですがその古い知識がいまだに亡霊のように独り歩きし続けているため
無駄でおかしな改造をされた原付バイクが今も絶えません


現代の原付バイクをスピードが出るように改造するには
高度な知識と技術と経験とお金が必要になります
特に50CCのまま速くしたいなどというのが一番困難です

バイクメーカーがそう簡単には改造で速くさせない姿勢になったのが
まず一番の理由ですが、このへんはメーカー側には大人の事情があるのでしょう
現代は色々と大らかな時代では無くなったわけです



例えば同型で50CCと90CCが存在する車種でも、見た目はほとんど同じだけど
50CCの車体に90CCエンジン換装を簡単にさせないように
メーカーの仕掛けた流用改造妨害の罠が張り巡らされていることが多いのです

最近は原付バイクもキャブレターからフューエルインジェクションになり
エンジンどころかバイク全てがセンサーだらけで電子制御で動いているため
給排気パーツをむやみに社外品に交換したりすると簡単に不調になり
元に戻すためにも修理は専用のコンピュータ再調整用の機材が必要になったりと
改造どころか修理・調整すらプロでも難しくなりました

素人の安易ないじくりまわしは即故障につながり
修理費が大きくかかることになります


つまり今の原付バイクはそう簡単には速くはなりません
というよりいじりたくてもほとんど何もいじりようがありません

せいぜいマフラーを社外品に交換して排気音を変えて楽しむとか
ハンドルやシートを交換して見た目をちょっと変えてみる程度です



この漫画の通りになるのは当時の原付バイクだけです
以上のことを踏まえて「俺は改造魔!」をお楽しみください




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